エロエロ日記。−夜のスクムウィット。


 昨日都心に出てタイ字新聞を読む会の例会に出席したあとスクムウィット通りをナナの方からアソークの方に向かって歩いておりますと夜のおねえさんに声をかけられます。

 そういうときは大抵、いかに自分が貧しく慎ましやかな人生を送っているか少し説明しただけでおねえさんは退散されるので大して問題はないのです。

 ですが昨夜のその彼女は、わたくしと一緒に歩きながら最後まで私の貧しく慎ましやかな人生を真面目に聞いて下さるのです。おねえさんと言っても年齢は二十歳前後、万一私が高校生の頃まちがいを起こして子供なんか作ってたら丁度彼女くらいの年齢だと思います。

 そんなに貧乏ならあたしのアパートで一緒にご飯食べましょう、ご馳走するから、と彼女は言います。丁度目の前はバス停で、彼女のアパートに行く路線のバスが停まったらしく、わたくしは彼女に押し込まれるように一緒にバスに乗ってしまったのです。

 そしてバスはアソークの交差点を右に折れ、クロントイ地区の方に向かって行きます。彼女はサコンナコンからバンコクに出て来て四年目だそうです。顔は、顎の部分が少し丸みを帯びていて目が大きく、鼻筋が通っています。このままルーズソックス履かせてハチ公前に放置したら平均十九分ごとに男に声を掛けられるくらいの可愛さだと思います。

 それに何よりも、彼女の乳首に届きそうなくらいの長さの黒い髪が凄くキレイに真っ直ぐ伸びていました。なかなか見ることが出来ない美しい髪だとわたくしは思いました。

 髪、キレイですね、とわたくしが言うと、彼女は両掌を口の前で合わせ、上半身を縮めるようにして、ありがとうございます、と言いました。

 バスから降りると、少しクロントイ港側に入った所に彼女のアパートはありました。アパートの壁や内装のいろんな所に電線が剥き出しになっていて、まるで映画『ブッパーラートリー』(邦題・609)の舞台のアパートみたいです。姉歯もビックリといった感じのたたずまいなのです。

 でも、彼女の部屋は内装を新しくしたみたいで壁はすべて塗り替えられていてキレイでした。わたくしは彼女に勧められるがまま部屋に敷かれたマットレスに座ったままその内装を見ていました。ワンルームで奥にはトイレがあるだけです。キレイに片付けられている以外は間取り的にわたしの部屋と大差ありません。

 あ彼女はああして夜スクムウィット通りに立って通る男性に声を掛け仕事一回につきおそらくは1000バーツ以上の収入を得ているだろうに思ったよりも意外と質素な生活をしているのだなあ、などとわたくし思っていると彼女が電気鍋を出してきます。

 そして彼女はその中にタンクの中の飲料水を注ぐと買い置きの即席麺を三袋ほど開封して入れてスイッチを入れました。彼女が野菜も一緒に入れるけどキライじゃない? と聞くのでわたくしが反射的に、好きだ、と答えると小さめの冷蔵庫にまな板を置き小松菜を刻みはじめます。

 わたくしは彼女の職業のありとあらゆる大胆な状況とは正反対に、質素に小松菜を刻む彼女の後ろ姿に自分でも止められない好意を感じてしまいそのまま何を考えることなく立ち上がって包丁を持った彼女を背後から抱きしめてしまったのです。




 とここまで書いてわたくしは、当初の目的だった四月一日にふさわしい文章をという目的からかけ離れそうになっている自分に気付きました。

 ただ単に皆様に読んでいただいてサクリと信じていただきサクリと、だまされたあ、って言っていただけるような文章を書けばいいのに、あっさりさっくりと小ネタの小ウソがつけないところが私のこれからの課題だと強く思いましたです。

 どう見ても失敗です。本当にありがとうございました。


(この文章はメールマガジンで配信されたものを転載しております)