カラバオ「ブアローイ / Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)」日本語訳

 今日はカラバオのライブで必ず最後に歌われる「ブアローイ / Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)」を訳してみました。

Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)

Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)

  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: MP3 ダウンロード

 ブアローイとは主人公の名前です。

 もうねアレです。

 久しぶりに歌詞を訳しながら最後のサビリフレイン聴いたら、少しばかり涙ぐまざる得ない。

 いまさらのコロナ非常事態宣言感染爆発下で満員電車に乗って通勤しなきゃならない日本のサラリーマンがみんなブアローイに見えてきてもう。


 さて、この曲もワラット博士著『カラバオの足跡を追いかけて』の中でたくさん言及されています。ワラット博士よりも、ニティ・イアオシーウォン先生の発言として引用される事が多いですが。

 ちなみに曲調は超ロックです。収録されているアルバムタイトル曲の「メイドインタイランド / Made In Thailand」とはぜんぜん違います。

 とりあえず2013年お台場での東京公演ステージ上からこっそり撮影された臨場感あふれる映像をご覧下さい。


Carabao Bua loy live at Tokyo,Japan 2013.09.28


 歌詞わかんなくてもその激しさがわかっていただけると思います。

 歌詞はシンプルな反戦歌といっていいと思います。ボブ・ディランの「戦争の親玉」なんかとコンセプトが類似しています。

 収録されているアルバム「メイドインタイランド / Made In Thailand」のリリースは1984年なのでモチーフとなっているのはタイ北部山岳地帯の国境での紛争だと思います。歌詞の言葉遣いから北部っぽいですし。

 ですがこの曲、その歌詞で歌われる物語が普遍的なので戦争が起こるたびに何度も有効利用されます。

 いつの時代、どんな状況であっても戦争の犠牲となる兵士がいる限りこの曲が脳裏に浮かぶタイ人がそれはもうたくさんいるのです。

 カラバオの激しい演奏とともに何千万人ものタイ国民の脳裏に刷り込まれまくっている物語なわけです。

 というより戦争でなくても権力者の私利私欲を肥やすために犠牲になる人がいる限り効力を発揮する曲だと思います。

 というわけで今回歌詞の日本語訳を読みながら視聴していただくMVは、2000年代にタックシン政権によって行われた麻薬一掃作戦によって命を落とした人をモチーフにして作られたものです。

 まさかのリリース20年後の有効利用MV。


Carabao บัวลอย

บัวลอย
ブアローイ / Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)


อัลบั้ม : เมดอินฯสังคายนา
アルバム : メイドインタイランドサンカーイナー
คำร้อง :ยืนยงโอภากุล
詞 : ユンヨン・オーパークン
ทำนอง :ยืนยงโอภากุล
曲 : ユンヨン・オーパークン


※บัวลอยเจ้าเพื่อนยาก
※苦楽をともにした真の友ブアローイ
ทําไมจากข้าเร็วเกินไป
どうしてそんなに早く行ってしまうんだ
บัวลอยไปอยู่ที่ไหน
ブアローイはどこに行ってしまったんだ?
เคยรู้บ้างไหมโหนกคิดคํานึง ถึงบัวลอย
わかっているのか? マノークはもうブアローイのことしか考えられなくなってしまっている


บัวลอยเขาเป็นชายหนุ่ม
ブアローイは若く
ตาเหล่ หลังงุ้ม เด๋อๆ ด๋าๆ
斜視で猫背の見た目がブサイクだった
รูปร่างแม้ไม่โสภา
スタイルは美しくはなかったものの
จิตใจลํ้าฟ้าดังสมญาบัวลอย
「ブアローイ(水に浮く蓮)」というその愛称通りに素晴らしい心の持ち主だった


เป็นเพื่อนคุยยามเพื่อนว้าเหว่
孤独な友がいれば話し相手となり
เป็นพ่อครัวยามเพื่อนหิวโหย
腹をすかせた友がいれば料理をふるまう板前となり
เป็นหมอใหญ่ยามเพื่อนโอดโอย
痛みに叫ぶ友がいれば偉大な医者になって
หาหยูกยามารักษาบรรเทา
薬を探して来ては痛みを和らげ治療してやった


บัวลอยถึงวัยเกณฑ์ทหาร
兵役の歳になったブアローイは
พิกลพิการยังดีหนึ่งประเภทสอง
身体的な障害をいとわず徴兵の道に進む
อาสารับใช้ชาติพี่น้อง
国民に尽くすために志願入隊し
หัวใจคับพองกล้าหาญอดทน
心をしっかりと持ち勇敢に耐え忍んだ
เป็นคนหนักเอาเบาสู้
自分に厳しく人と諍いを起こさず
อุตส่าห์มานะถ่อมตน
真面目で謙虚で
ช่วยเหลือเพื่อนๆ ทุกคน
すべての友を助け
ร่วมแต่ทุกข์สุขไม่สนใจ
ただ苦楽をともにすることだけには興味がなかった


(ซํ้า ※)
(※ 繰り返し)


วันหนึ่งมีเสียงปืนคําราม
ある日銃声が鳴り響き
บัวลอยถูกหามมาในเปลผ้าใบ
ブアローイが担架で運び込まれた
ยังละเมอห่วงว่าใครเป็นอะไร
それなのに朦朧とした意識の中で誰彼はどうしてるんだろうかと他人のことを心配する
คือคําพูดสุดท้ายของชายชื่อบัวลอย
それがブアローイという名の男が最後に発した言葉だった
ตั้งแต่วันนั้นยันวันนี้
その日から今日に至るまで
แสงตะเกียงริบหรี่ที่บ้านไร่ปลายดอย
山のふもとの田舎の家にあるランプのかすかな明かり
ไม่มีชายคนที่ชื่อบัวลอย
ブアローイなどという名前の男はもう存在しない
ความเหงาหงอยค่อยเข้าปกคลุม
孤独と寂しさが少しずつ包み込んでゆく


※※ โลกนี้ไม่สมประกอบ
※※ この世界は平等になんか作られちゃいない
เพราะบางคนชอบเอาแต่ประโยชน์ส่วนตน
一部の人間がいつも自分だけ利益を得ようとしてるからだ
โลกนี้มีสักกี่คน
この世界では何人もの人間が
เป็นบัวหลุดพ้นดังคนชื่อบัวลอย
ブアローイという名の人間のように枯れ落ちた蓮となる


(บัวลอย!)
(ブアローイ!)


(ซํ้า ※※)
(※※ 繰り返し)


 余談でありますが「ブアローイ」とは人の名前とは別にココナツミルクを使うタイのスイーツの名前でもあります。

ja.wikipedia.org


 おととし何故かこの「ブアローイ」が大型台風の名前として命名されたのですが、台風の名前は可愛いことが多いので適当にタイのスイーツの名前ってことでそうなっちゃったんだと思います。

 でもタイ人とか私のようにこの曲を知る一部の外国人にとっては曲調と台風のイメージがなんかマッチしてて妙に納得がいったことだろうと勝手に想像しております。


 さらに余談というか大事な情報ですが、この「ブアローイ / Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)」ですが、ファーストアルバムから10曲くらいある「若い水牛」組曲の中の5曲目です。

 というか組曲全体の主人公はブアローイの友だちであるマノークなのでスピンオフ的な曲です。なのに今やスピンオフだと忘れられるくらいのカラバオの代表曲となっています。

 つうかスビンオフのこの曲からはじまる組曲がさらに2曲くらいある気がするぞ。

 というわけで「ブアローイ / Thug Kaoy Tuey 5 (Buo loi)」についてのさらなる情報や他の曲の音源リンクなどはこの本に詳しく掲載されています。


 無料サンプルだけでも読んで帰ってくださいね。

カラバオ「メイドインタイランド / เมดอินไทยแลนด์」日本語訳

Made in Thailand

Made in Thailand

  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: MP3 ダウンロード

 『カラバオの足跡を追いかけて』で最も言及されているのがこの曲です。

 カラバオの代表曲で、いまでもライブでは必ず演奏されています。

 アルバムは人口7千万に届かないタイ国でトリプルミリオン(海賊版も入れたら500万)の売上を記録したと言われてます。

 著者のワラット博士はじめ、いろんな方にすごい言及されようなのでめちゃくちゃ売れたんだと思います。

 訳者序文にも書いたとおり、カラバオ反日バンドだと誤解される原因にもなった曲です。

 せっかくなのでどう誤解なのかわかるよう歌詞を日本語訳してみました。

 500万再生超えの35周年記念コンサート動画を視聴しつつ読んでみて下さい。


คาราบาว - เมด อิน ไทยแลนด์ (คอนเสิร์ต 35 ปี คาราบาว) [Official Video]

เมดอินไทยแลนด์
メイドインタイランド/Made in Thailand


คำร้อง :ยืนยงโอภากุล
詞 : ユンヨン・オーパークン
ทำนอง :ยืนยงโอภากุล
曲 : ユンヨン・オーパークン



เมดอินไทยแลนด์แดนดินไทยเรา
メイドインタイランド 我らの国土
เก็บกันจนเก่าเรามีแต่ของดีดี
古代より遺してきたのは優れたものだらけ
มาตั้งแต่ก่อนสุโขทัยมาลพบุรีอยุธยาธนบุรี
スコータイ時代からロップリー、アユッタヤー、トンブリー時代ときて
ยุคสมัยนี้เป็นกทม.
現在はバンコクの時代
เมืองที่คนตกท่อ(ไม่เอาอย่าไปว่าเขาน่า)
人々が排水口に落ちる都(それわざわざ言わなくてもいいから)


เมดอินไทยแลนด์แดนไทยทําเอง
メイドインタイランド自らで作った国
จะร้องรําทําเพลงก็ลํ้าลึกลีลา
自らが作った歌い踊るその曲もすごく深遠で優雅
ฝรั่งแอบชอบใจแต่คนไทยไม่เห็นค่า
ひっそりと西洋人愛好者はいるがタイ人には価値がわからない
กลัวน้อยหน้าว่าคุณค่านิยมไม่ทันสมัย
その価値は現代的ではないと引け目を感じているんだ
เมดอินเมืองไทยแล้วใครจะรับประกันฮะ
メイドインタイランドを誰も保証しようとはしない
(ฉันว่ามันน่าจะมีคนรับผิดชอบบ้าง)
(ちょっとくらいは責任をとろうとするやつがいるだろう)


เมดอินไทยแลนด์แฟนแฟนเข้าใจ
それで海外のメイドインタイランドファンたちはわかってる
ผลิตผลคนไทยใช้เองทําเอง
タイ人の作った製品を自分たちで使おうと
ตัดเย็บเสื้อผ้ากางโกงกางเกง
偽りのズボンを仕立てて縫う
กางเกงยีนส์(ชะหนอยแน่)
ジーンズだってほら(そりゃもう当然)
แล้วขึ้นเครื่องบินไปส่งเข้ามา
それを航空便で送りタイにまた輸入
คนไทยได้หน้า(ฝรั่งมังค่าได้เงิน)
タイ人は名声をゲットし(西洋人は金をゲット)


เมดอินไทยแลนด์พอแขวนตามร้านค้า
メイドインタイランドを店で陳列するときは
มาติดป้ายติดตราว่าเมดอินเจแปน
メイドインジャパンって書いたラベルやタグを付ける
ก็ขายดิบขายดีมีราคา
するといい値段ですぐに売れる
คุยกันได้ว่ามันมาต่างแดน
これ外国製なんですよだなんてセールストークもできるし
ทั้งทันสมัยมาจากแม็กกาซีน
ぜんぶ雑誌に掲載されている最先端ですなんて言っちゃって
เขาไม่ได้หลอกเรากิน
誰かが私たちを騙してるんじゃない
หลอกเรานั่นหลอกตัวเอง...เอย
自分たちで自分たちを騙してるんだ

 

 ちなみに歌詞の中の「バンコクの時代」の部分は音源によって「タイ愛国党」になったりしています。ライブではお約束のようにその当時の政局に応じて変わったりもします。お茶目ポイントですここ笑うとこです。

 この曲に関するさらなる詳しい解説はこの本で。

ワラット・インタサラ博士の謎。

 最初にこの人の名前を見たのは本屋でした。

 正直、誰だあんた? という感じでした。

 知らなかったのです。

 でも、知らないのは知らないほうが悪いのだとすぐに思い知らされることになりました。

 知らないのは罪なのです。

 知らないからと言って俺知らないんだよね、って上から目線で済ませちゃったら終わりなわけです。

 ちゃんときっちり作品という形にしてリリースしている方に対して無礼なふるまいなわけです。

 無礼なだけではなく自分のプラスにもならないわけです。


 しかしまさかカラバオについて学位論文を書いて出版している学者がいるなんて。

 というわけで私は2007年に見つけたこの本の初版本を即座に入手して読みまくりました。

f:id:whitestoner:20210103113429j:plain

 読みまくった結果、ヤバい人だこの人、と思いました。

 だってカラバオですよカラバオ

 反体制の楽曲をバリバリにリリースしまくって放送禁止になりまくってきたバンドですよ。

(ワラット博士はご丁寧にもこの本の中で放送禁止曲リストを作成して下さってます。それによると歌詞に「金玉」を使用したことで放送禁止された曲がけっこうありました)


 そんな金玉危険なバンドの作品とその歴史を学位論文にしちゃうわけです。

 たとえてみるとですね。文学研究として、矢沢永吉とか桑田佳祐とか長渕剛とかを修士論文とか博士論文とかで提出するようなものかもしれません。

 そんなの研究課題としてはアリかもしれないけど、学界にいたら絶対いろいろとめんどくさそうじゃないですか。

 なのにこんなのを堂々と出版。

 読んでみたら内容はさらにチョーやばい、

 超ストレートな文学研究じゃないですか。




 とにかくやばいんですこの本がいろいろと。

 ちゃんとしまくっているわけです。

 そんなちゃんとしてる方に対して私がした処置というと。





 放置。



 いや放置しちゃやばいじゃんこんなもん。

 でもやばすぎるのでとりあえず保留。

 ヤバすぎて手が出せなかったわけです。

 というわけでその放置状態を13年で何とかストップさせることができたのが今回翻訳リリースしたこの翻訳作品というわけなのです。

 ずーっとこんなやばいもん書きやがって誰だよお前って思いながら、とりあえずわたくしは何年も前からこの方をSNSで見つけてはフォローしまくっておりました。

 タチの悪いストーカー一歩手前です。

 そして昨年、ようやくこの本の翻訳作業に着手し、ある程度翻訳のメドがついたところで本格的なストーカー活動開始です。


 いきなりDMで連絡し、

「お前の本を日本語化している。最後までやって欲しくば翻訳許可よこせ」

といった感じの脅迫文を送りつけたわけです。


 主旨は同じですがそこのところはもっとちゃんと礼儀正しいタイ語で。

 その結果あっさりと翻訳許可をいただけることになったわけです。

 そして去年の9月にちゃんと公式に契約交わしましょうとなったわけです。



 ちなみに調印当日の私はコロナ自粛してたタイ国僻地から出てきて日本に帰国するために久しぶりにバンコク上京。

 短パンでお気楽にバンコク入り。

 それでワラット博士にお会いするときだけはジーンズ正装で行こうと目論んでおりました。

 終わったら即座にどこかのトイレで短パンに穿き替えて帰るという流れで。

 そしてそのまま空港に行って日本帰国という状況だったのです。


 ですがあろうことにベルトを忘れるという始末。

 その当時、除脂肪絶賛成功中だったのでベルトなければジーンズ間違いなくずり落ちます。

 仕方がないので調印場所である博士のお宅まで行く途中の雑貨屋でヒモを購入し乗り切るという蛮行に打って出ました。

f:id:whitestoner:20210104194057p:plain

 というわけでジーンズをヒモで縛っているということはなんとかバレずに無事調印終了。

www.instagram.com


 いや、バレてたかもしれませんが。




 そうして無事に事なきを得て契約終了した数ヶ月後、何とかリリース直前までこぎつけたので博士に著者プロフィールを送ってくださいとお願いしたわけです本書に掲載するために。


 そしたら学者としてのちゃんとしたプロフィールが送られてきたわけです。

f:id:whitestoner:20210104194509p:plain

 研究テーマは最初からカラバオ一本だったみたいですこの方。

 さすが筋通ってるなと思ったら近年の研究課題がこのように。

f:id:whitestoner:20210104194536p:plain

 幼児のための算数戦争カードゲームって……。


 やばいそれ遊んでみたい。

 その他にもマスコミでの活動実績などのも書かれていてバラエティ番組のプロデューサーもされてたみたいです。

f:id:whitestoner:20210104194559p:plain

 ほかにもいろいろとなんか興味深い略歴を経られている方です。

 ああ普通の大学の先生かと思ったらいろんなところを流れていらっしゃったのだなと思いました。

 しかし困ったことがひとつあります。

 このプロフィール、生年に関することが一切書かれてません。

 ですので私、ワラット博士が歳上なのか歳下なのかもわからないのです。

 困ったのでツイッターのプロフィールを見たらヒントが書かれているのではと思い見に行ってきました。

 以下がその一部直訳です。


案内者:レゴ遊び:カラバオ視聴:リバプールとタイ国ナショナルチーム応援団:


 レゴ遊び?


 カードゲームといいレゴ遊びといい、またさらに博士の年齢がわからなくなってきた気がいたします。


 そんな謎に包まれたワラット博士から日本の読者の皆様に向けてのメッセージは以下です。


www.youtube.com



 今から思うと事前にプロフィールもらってもっといろんなこと聞けば楽しいインタビューになったのにと反省しておりますごめんなさい。

 というわけで大事なことなのでもう一度だけ言いますがそんなワラット博士渾身の学術論文は以下です。

ワラット・インタサラ著『カラバオの足跡を追いかけて』翻訳者序文

(この文章は拙訳書 ワラット・インタサラ著『カラバオの足跡を追いかけて』の翻訳者序文として書かれたものです。)



 どこから、そしていつから話せばいいんでしょうか?


 とりあえず僕がカラバオの音楽と出会った経緯などは書かないことにしました。そんな事書いてたらとてつもなく長くなってしまうし、それよりも大事なことがあるので書いてる余裕などないのです。

 2002年のことです。ウォラポッ・パンポンがわざわざプラプラデーンまでやって来ました。

 そんな事言われても読者の皆様には誰だそれ? でしょうが、彼は首相からアイドルまで幅広くのインタビューを担当してきた日本で言えば吉田豪みたいに著名なインタビュアーなのです。吉田豪よりはいささかメインカルチャー寄りですが。

 その乱暴にたとえるとタイの吉田豪的な方がわざわざ僕にインタビューするために都心から離れたサムットプラカーン県のプラプラデーンまでやって来たのです。

 そしてそのインタビュー記事と写真がジェントルマンズ・マガジンといういかにもイケてそうな名前で、イケてる有名企業の広告に満たされた雑誌の2002年8月号に掲載されました。その中で僕がウォラポッ氏の質問に対して以下のように答えたのが今から思えば危機のはじまりだったのです。



f:id:whitestoner:20201231072756j:plain
「書籍以外にも、白石はカラバオの歌詞を翻訳しはじめている。興味がある曲を100曲選んで日本語に訳そうと考えているのだ。
 日本人の目には、カラバオはコミカルなバンドに見えている。帽子をかぶり、ジーンズをはいて、西洋の音楽を演奏している。だが、そこから出てくる歌声はタイ訛りのタイ語だ。

 歌詞が理解できない日本人にとっては、見た目がコミカルなバンドだけだとしか認識されていない。

 カラバオの楽曲の多くが現実の政治、社会、地方住民の方法論的なものやその小さな人生に言及している。すなわちそこには見過ごすわけにはいかないタイという民族のディティールが存在しているのだ。

 カラバオ楽曲のサウンドとリズムにはすでに素晴らしい独自性が存在している。歌詞を訳すことができれば日本人にも理解でき、タイ日両国の人間が互いを理解するのに役立つことになると思う」




 なんだこいつ偉そうに。
 

 当時の僕はたかだか真面目にタイ語読み始めてたかだか一年ちょっとくらいの時期でした。そんな幼児レベルの分際にもかかわらず、こんな大層なことをウォラポッ・パンポン氏に語っていたのです。それはもうインタビュー記事として証拠が残ってしまっているのだから逃げられないのです。

 だからそれから18年間ずっとカラバオの楽曲の内容について書いたり訳したりしなければならないと思い続けてきました。実際に何曲か訳してはいるのですが、本の形にまとめる事はできませんでした。


 90年代に日本でたくさん発売されていたタイ旅行ガイドブックやタイについての書籍で紹介されているカラバオは「メイドインタイランド/Made In Thailand」という曲で日本を批判したというふうに書かれていました。

 ですが90年代終盤から僕が何度もタイ語で読んだり、時には歌ってきた歌詞にはそんなことひとつも書かれていませんでした。「メイドインタイランド/Made In Thailand」で批判されているのは日本ではなく自分たちタイ人なのです。

 タイ音楽をしたり顔で語っていた当時のライターたちが歌詞の内容を確認することもなくうわっつらだけの知識をもとに雰囲気で書いた結果、タイでカラバオという名の反日バンドが大人気だという誤った情報が多くの日本人に伝わりました。

 彼らは歌詞という基本的な参考文献も参照することなくぼんやりとした印象で書いていました。しかも、彼らはなぜか上から見下しながら断定する書き方をします。なんの根拠もないのに。

 その結果カラバオ反日バンドだというレッテルが貼られてしまい、そしてそれを誰もちゃんと正してこなかったのです。


 じゃあなんでお前がそれをやらなかったのか? どうしてこんなになるまでほっといたんですか? などと思われるかもしれません。


 なぜこんなに時間がかかってしまったのか?


 すべてがこの『カラバオの足跡を追いかけて』のせいなのです。


 この本が2007年に出版されたおかげで僕の中ですっかりカラバオについてまとまったものを書くという行為自体のハードルが上げられてしまい、手も足も出せない状態になってしまったのです。

 本書にはカラバオについて僕が書こうとしていたことのほとんどがすでに詳しく書かれていたし、知らないこともすごくたくさん書かれていました。

 この本からパクって書いていけば、カラバオについての正しく根拠ある文章をいくらでも書くことができたでしょう。しかも日本人が知ることがない情報が満載された価値ある文章を何本とは言わず何冊分も。

 でもそれはできませんでした。自分がカラバオについて書くのであれば、全て元ネタである本書を明らかにした地点からやるべきだと思ったのです。

 すなわち、僕は現時点で最高のカラバオ研究であるこの本を翻訳し、そこをスタートラインとして書いていくべきだと思った結果、こんなに長い年月が過ぎ去ってしまったというわけです。


 以上が何年もサボっていた言い訳です。



 さて、本文中のわかりにくい事に関しては原著には存在しない説明や画像をいくらか追加しております。その部分には翻訳者の単独犯行であるとわかるように【訳者】と記しております。

 ですが頻繁に登場するプア・チーウィット、サムチャーなどの日本人にとってなじみが薄いタイ音楽のジャンルを表す専門用語については特に説明しないことにしました。本文中で著者のワラット先生がボブ・ディランはじめ多くのアーティストを引き合いに出して語ってくれているし、9章のインタビューでティワーさんもそれを定義することについて言及しています。だから僕は読者の皆様それぞれが読んで判断すればいいと思いました。それだけの判断材料がこの本の中には収められています。


 そもそももうそんな時代じゃないです。

 電子書籍にリンクを貼って視聴しながら読める時代なのですから、音楽のジャンルに関しては読者が聴きながらなんとなく判断していくのが正解だと思うのです。


 そういう趣旨でできる限り視聴できる各音楽配信サイトへのリンクを貼りまくりました。カラバオを中心に本文中に出てくるタイ歌謡の楽曲を300曲以上、探しまくって貼れるだけ貼りました。各楽曲の歌詞を読み、曲の内容が感覚的に伝わるように日本語タイトルもつけました。サブスクリプションで聴ける曲もあるので読みながら聴きまくっていただけると翻訳者としてすごくうれしいです。


 そんなことより大問題です。

 それは英文字で表記されている曲名です。

 微妙に不正確なものが混在しています。

 原題では「京都」なのに英文字名では「tokyo」になっているとか、同じ「ワニポク」なのに「Wanipok」と「Wanipock」のふたつの表記があるとかいろいろゆるいまま流通してしまっています。

 それらの間違いも含めたものが世界中の音楽配信サイトで公式に英文字表記の曲名になってしまっているのです。

 だからこの本に英文字名として書かれている曲名は、明らかに正しくなくてもその表記に準じました。

 ヘタに書き直すとタイ語がわからない大多数の読者の皆さんが英文字名で検索かけた際に困ると思ったからです。

 日本語タイトルとタイ語原題を併記できればいいのですが、電子書籍の仕様上の問題なのか、日本語と混ぜるとタイ語の位置がおかしくなることが多々あるのでそれはできませんでした。

 そういった土台を踏まえた上でいろいろ悩んだ結果、苦肉の策として第13章にタイ語曲名と英文字曲名を併記した索引をつけました。タイ語で歌詞を読んでみたいという奇特なタイ語使いの方がいらっしゃったら、英文字表記タイトルで本書の中を文中検索すればタイ語の原曲名が見つかるようになってます。それを手がかりに検索していただければネットのどこかに落ちている歌詞が見つかると思います。

 もちろん、タイ人のおともだちから簡単にカラバオのおすすめ曲を教えてもらったりするためにこのタイ語索引を利用することも可能です。

 せっかくなので第12章にはカラバオオリジナルアルバムのディスコグラフィーもつけました。

 そもそも原書は第11章までしかないのですが勝手に第12章と第13章追加です。

 翻訳者としてもうやりたい放題です。なんかすみません。



 というわけでひととおりご説明さしあげたところで大事なことなのでもう一度言います。



 ここからはじめます。間違いなくここがベストのスタートラインだからです。



 今後カラバオについて訳したり書いたりする際は、本書に書かれていることを踏まえて語っていきます。

 本書はそれだけの内容と価値と持った音楽評論であり文学研究であると、この10ヶ月間何度も感動しながら翻訳してまいりました。


 というわけでカラバオについて18年以上も手が出せなくなってしまうほど高いレベルのハードルだけにとどまらず、そのスタートラインさえもずーっと後ろの方に設定しなければならないほどの素晴らしい仕事をしてくださった著者のワラット・イントサラ博士には本当に心からの愛と憎しみをこめて感謝いたしております。

 SNSでいきなり面識の無い無名の日本人から翻訳出版許可よこせとなどと言われかなり驚いたと思います。びっくりさせて本当に申し訳ないです。快く翻訳出版許可をいただけてありがたき僥倖であります。


 あと、厳密には自分の本ではない翻訳者の分際で序文にこういうことを書くのもどうかと思うのですが、バンコク近郊でカラバオのライブを観に行く時、いつも一緒に来てくれた福士貴光氏に本書を捧げたいと思います。

 彼のラジオ番組に呼ばれて1時間近くカラバオの話をさせられたり、ことあるごとに早くカラバオについての本を書くようにと18年以上も脅迫に近い激励をいただき急かされ続けて来ました。

 この本が日本語で読めるようになって彼が一番よろこんでくれると確信しています。


                       令和2年12月29日

                             白石昇

土屋顕史を許してやることにしました。

 土屋顕史を許してやることにしました。

 ここに書いても本人に伝わるかどうかはわかりませんが。

 まああんだけひどいことされたので別に伝わんなくてもいいんですけどね。

 いま新刊訳書完成してごきげんなのでそのノリで。

のぼるちゃん泰日単語データベースリニューアルオープン。

 のぼるちゃんです。泰日単語データベースを作ってる人です。

 いやウソついてます。

 タイ語の本を日本語に翻訳するついでに単語帳をデータベースにしてる人です。

 簡単に説明すると自分の頭を通り過ぎていったタイ語の単語を収集している人です。

 あたしを通り過ぎていったタイ語たち、といった感じです。

 20年以上前からずーっと更新してたんですが、ここ何年間かいろいろ根本から作り直して効率化を図ってるうちに公開できないくらいでかいデータになってしまって分割しながら制作しており、にっちもさっちも行かなくなっておりました。

 それが今回なんとかなったっぽいので訳書読者様限定で無料配布いたします。

 これだけデータが増えたのも私が訳した泰日翻訳言語藝作品を読んでくださる読者様あってのことです感謝しております。

 というわけで今回の更新内容は以下です。

見出し語数(タイ語) 65,209
見出し語数(日本語) 63,151
見出し語数(ひらがな) 60,682
見出し語数(英語) 39,495

 ほんとはタイ語見出しでこの3倍くらいのすごい数になってるのですが、今回はとりあえずこれだけ公開させていただきます。

 今確認したら実に11年ぶりの更新らしいです。

 ダウンロードはこちらからどうぞ。  
http://whitestoner.g2.xrea.com/words/pdicnoboruchan.zip


※ダウンロードに関して注意点があります。



 さて、次に訳書読者様認証方法です。

 こちらが指定した書籍の現物写真をツイッターハッシュタグ付きでアップしていただくという方法で認証させていただきます。

 電子書籍版は指定ページを表示している端末の写真をアップしてください。スクリーンショットは不可です。

 もちろん現物の背景には読者様のお姿が写り込んでいてもかまいません。

 そのほうが各作品の著者様が喜んでくださると思います。

 確認できましたらこちらからDMで解凍用パスワードを送らせていただきます。

 ハッシュタグタイ語も混じっておりますのでコピペしてツイートしてください。複数ありますので余さず全部コピペしてください。

 間違えるとDMが届きません。

 解凍できましたら中に入っているreadmenoboruchan.txtをよく読んでお使いください。


 それでは各作品ごとに分けて現物写真とハッシュタグを書かせていただきます。


■水の流れをやさしくすぎて: スワンモークでの記録

指定写真:最終章「水の流れをやさしくすぎて」の次頁にある比丘写真
指定ハッシュタグ:#のぼるちゃん泰日辞書データ #水の流れをやさしくすぎて #ナワラットポンパイブーン #เนาวรัตน์พงษ์ไพบูลย์


■エロ本(電子書籍

エロ本

エロ本

指定写真:最終章「裕福になった僕」の前ページにある風呂上がりっぽい後ろ姿イラスト
指定ハッシュタグ:#のぼるちゃん泰日辞書データ #ウドム・テーパーニット


■gu123

gu123

gu123

指定写真:カバーを外した状態の表紙
指定ハッシュタグ:#のぼるちゃん泰日辞書データ #ウドム・テーパーニット #gu123


■エロ本(白石昇事務所発行初版 表紙がウドム・テーパーニット氏の顔)

エロ本

エロ本

指定写真:70ページ
指定ハッシュタグ:#のぼるちゃん泰日辞書データ #ウドム・テーパーニット


■エロ本(タイ国内限定発売第2版 表紙がチョムプー)

指定写真:カバーを外した状態の表紙
指定ハッシュタグ:#のぼるちゃん泰日辞書データ #ウドム・テーパーニット


 それでは読者各位様のツイート、お待ちしております。

【日本語意訳】「新たな空に許しを請う」ナワラット・ポンパイブーン 【แปลเป็นภาษาญี่ปุ่น】เพลง ขมาฟ้าใหม่ เนาวรัตน์ พงษ์ไพบูลย์

 新刊(訳書)出して1ヶ月以上がたちました。



 でももうなんか告知とか販促とかそれどころじゃねえよなあ。


 著者のナワラット先生に日本の読者に向けてのメッセージ動画撮って送ってもらって字幕付き公開とかしたかったんですけどね。


 今タイはロックダウンと外出禁止令中だしなあ。


 解除されたら頼んでみようかなとぼんやり思ってたらナワラット先生のスタッフの方から連絡。


 動画できたよと連絡。


 あれ、動画たしかまだ頼んでないぞ、と思って送られて来たリンクをクリックしてみました。




 まさかのミュージックビデオでした。


 作詞だけでなく作曲までナワラット先生。


 プロデュースにはクルイ(縦笛)奏者のタニット先生(元カラバオ)。


 たくさんのスポンサーが出資した映画みたいな映像にびっくりです。



 よかったらのぼるちゃん訳してという話だったので以下に意訳しました。


 なぜ意訳かというとちょっとすぐには調べられない感じの文語がいくつか散見されたり、詩人らしい韻文歌詞でちょっとそのまま日本語化できなかったりした部分があったからです。そのあたりあらかじめご理解願います。


 というわけですげえ大掛かりでちゃんとしたミュージックビデオは以下です。


www.youtube.com




 日本の皆さまがおうちで楽曲聴きながら訳文を目で追ってくださるとナワラット先生も喜んでくださると思います。


เพลง ขมาฟ้าใหม่
新たな空に許しを請う



ประพันธ์คำร้อง/ทำนอง : อ.เนาวรัตน์ พงษ์ไพบูลย์
作詞作曲 : ナワラット・ポンパイブーン
ดนตรี/ควบคุมการผลิต/บรรเลงขลุ่ย : อ.ธนิสร์ ศรีกลิ่นดี
音楽/制作指揮/縦笛 : タニット・シリクリンディー
ขับร้อง : หรั่ง ร็อคเคสตร้า, หญิง ธิดารินทร์
歌 : ラン・ロックケストラー、イン・ティターリン
เรียบเรียง : พงศ์พิธาน ธุวัชชัย
編曲 : ボンビターン・トゥワッチャイ



ปู่เอ๋ย ปู่ตา
おじいさんたち
ขมาขวัญข้าว ผีเยือนผีเหย้า
稲の精霊、精霊たちに許しを請う
ลูกทำผิดพลั้ง พลาดพลั้งผ่อนเพลา
あなたたちの息子はどこかで重大な過ちを犯した
ขอจงอภัย
許していただきたい


จะล้ำเจริญ
繁栄してきた
จะเดินเหนือโลก ยกเยินยกใหญ่
世界を超越して巨大に歩を進めてきた
แต่วันสุดท้าย นรกประลัย
だが終末の日 滅亡への地獄が
โหมภัยทั่วแผ่นดิน
全ての大地に襲いかかる


ฤๅถึงวันสิ้นโลก
世界が終わる日に到達し
เมืองฟ้าล่ม คนสูญสิ้น
天界は滅亡し 人々は消滅する
แสงสุดท้ายในแผ่นดิน สาดรังสีรวีสว่างใจ
大地における最後の光 その光が放射され心を明るくする


ขวัญเอ๋ยขวัญมา
魂よ 訪れ来たる魂
ขมาฟ้าใหม่ ผียงผีใหญ่
新たな空、力強く巨大な精霊たちに許しを請い
เพื่อนเอยเพื่อนพ้อง พี่น้องร่วมใจ
友よ同志よ みんなで心をあわせ
รวมใจเป็นหนึ่งเดียวฯ
心をひとつにしよう

f:id:whitestoner:20200414163517j:plain
ナワラット先生直筆