プロのおねえさん。


 モツ鍋食いに来たのは男女つがいのおふたりで、おねえさんはプロのステージ歌手だそうです。




 一緒に歌ってやってくださいよと恐れ多いご提案などいただきましたのでギターなど弾いてみます。


 おねえさんはいきなり、あたしキーがBmだから、などとおっしゃいます。


 ええええなんですかそれ?


 つうか僕生まれてこの方ギターのキーいじったことないんですよね。


 しかたがないので割り箸と輪ゴムで即席カポを作ってみます。


 で、弾いてみるのですが、おねえさんはどうやら通しで歌えないみたいです。



 しかたがないので歌本を渡してみます。


 なんかそれでもちゃんと歌えません。


 タイ人なら誰でも知ってる曲なのに。


 しかたなくわたくしも一緒に歌おうとするのですが、わたくしが歌いだすと歌うのをやめてわたくしの発音が違うと細かくチェックを入れてきます。


 ありがたい事なのですがぼくはねえさんと一緒に歌いたいのです。


 ねえさんのお歌を聴きたいのです。




 結局ねえさんはワンコーラスさえ歌い切ることなく、終始わたくしの発音チェックに終始されました。


 なんかもう、スパーリングやって一発ももらわなかったのに、そのスパーリングパートナーに君のジャブの打ち方は間違ってるとか言われてるような気分です。


 つうかスパーでもそうですけど路上だったらねえさんより俺の歌のほうが間違い無く伝わるな。


 わたくしだってダテに全国まわって300曲以上歌ってないし、いきなりのむちゃぶりにも対応してきたんですから。


 なんか久しぶりに東京で物書きとかクリエイター志望者のひとに作品とは関係ない知名度とかの部分を判断基準に見下されたような懐かしい気持ちになりました。


 音楽やってるひとで、理屈だけで対応するひとってほとんど会ったことなかったからなんかちょっとびっくり。